久隅守景「人物水牛図」
久隅守景「人物水牛図」
牛を曳き歩く一人の牧童を描きます。牧童は踵を返して牛を見遣り、「さあ、帰るよ」とでも言っているようです。牛を見遣る牧童のまなざし、彼に従う牛の目つきはいずれも穏やかで、画面には牧歌的な空気が流れます。
やわらかな淡墨の色合いや、肥痩を巧みに操り対象の形を捉えた筆線に、守景画の特徴がよく現れています。
本作品のような牧牛図は、華中、華南の風物として古く唐代より描かれてきました。
さらに宋代に入ると、禅の悟りの過程を牛と牧童に喩えた「十牛図」が登場します。
十牛図において、牛は「真の自己」を、牧童は「真の自己を追い求める修行者」を表します。牛と牧童の組み合わせには、単なる田園風景にとどまらない重層的な意味が隠されているのです。
本作品の牧童は、牛を馴らし従わせることに成功しているようです。そんな牧童の姿に、真の自己を得るに至った悟りの境地を重ね見るのも、また一興でしょう。
久隅守景(もりかげ・生没年不詳)は江戸時代前期に活躍した狩野派の絵師です。狩野探幽(1602~1674)門下の四天王の一人と称されましたが、のちに破門され、独自の画風を切り開きました。国宝「納涼図屏風」(東京国立博物館蔵)などで知られています。
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